大正浪漫〜昭和レトロモダンの叙情画家たち

今、私たちがファッションのことを知りたいとき、方法は無限にありますよね。
インターネットやファッション雑誌、お店で直接チェックする……など。
果たして昔の女の子はどうやって情報を得ていたのでしょう?

ファッションリーダーは叙情画家

江戸時代、浮世絵には「絵画」でありながら、現代でいうファッショングラビアや、芸能雑誌のような情報メディアの役割もあったそうです。

では明治〜大正〜昭和初期はどうだったのでしょうか。
この時代にファッショングラビアの役割を担っていたのが本や雑誌、広告などを飾る「叙情画(イラスト)」でした。
カラー写真の印刷技術が発達していなかったということもあるのでしょう。
当時の女性は叙情画を着こなしの参考にしたり、呉服屋や百貨店に注文する際の資料にしたりしていたそうです。

「夢二式美人」と呼ばれる独特なタッチの美人画で人気画家となった竹久夢二(たけひさゆめじ)
大正時代創刊の高級婦人雑誌「婦人グラフ」に掲載された叙情画はどれも儚げな魅力を感じさせます。
また、夢二がデザインした版画や雑貨を販売する「港屋絵草紙店」は夢二式美人に憧れる多くの女性で大繁盛しました。
本や雑誌の装丁、絵本や広告などの出版物はもちろん、浴衣、帯、風呂敷、半衿などのデザインまで幅広く手掛けた夢二は日本のグラフィックデザイナーの草分け的存在。現代でも夢二グッズは和小物が好きな方に大人気です。
夢二と同時代に人気を博したのが「高畠華宵(たかばたけ かしょう)」と「蕗谷虹児(ふきや こうじ)」です。
少女たちは「華宵党」「虹児党」に分かれて、彼らの抒情画に夢中になりました。
ちなみに現在広い意味で使われる叙情画ですが、言葉を生み出したのは蕗谷虹児で、もともとは蕗谷虹児自身の絵を指しています。

耽美でロマンチックな雰囲気を持つ高畠華宵の美少女や美少年。
少女雑誌、少年雑誌に描かれた叙情画でブレイクし、たちまち竹久夢二と並ぶ人気画家となりました。
華宵が描く女性のファッションは最先端の流行を描いたものとして、大人気となりました。モダンなファッションを表す言葉「華宵好み」という言葉も生まれます。
和装・洋装ともにさまざまなファッションを描いた高畠華宵。
和装に至っては「生涯にわたって同じ柄の着物は二度以上描かなかった」と豪語したとか。ファッションリーダーとしての矜持が感じられます。
「花嫁人形」の作者として広く知られている蕗谷虹児
カラー画に描かれる少女は柔らかで健康的な雰囲気を、モノトーンで描かれた線画からはヨーロッパの都会的な雰囲気を感じさせます。
竹久夢二に才能を見出され挿絵画家としてデビューした蕗谷虹児。吉屋信子の小説の表紙などが評判を呼び、時代の寵児となりました。
しかし挿絵画家としての生活に飽き足らず、デビューからわずか約5年後パリへ留学。パリでは日本画家として藤田嗣治に並ぶ高い評価を獲得しました。
しかし家庭の事情により志半ばで帰国。挿絵画家として復帰し、モダンな画風で再び人気を博します。戦後はアニメーションの仕事にも参画しています。
かの三島由紀夫や堀口大學も虹児のファンだったそうです。

昭和に活躍、中原淳一

昭和初期〜中期を代表するファッションリーダーといえばなんといっても中原淳一でしょう。
淳一は叙情画だけでなく人形作家、編集者、エッセイストと多岐に渡り活躍し、その後のファッション文化に多大な影響を与えました。
ファッションデザイナーの芦田淳は実際に淳一に弟子入りしています。また、高田賢三や金子功、森英恵、花井幸子、丸山敬太、コシノ三姉妹など、世界で活躍するデザイナーの多くが、淳一の影響を受けたと語っています。

挿絵画家として1932年(昭和7年)にデビューした中原淳一。
「少女にこそ一流の作品を」というモットーのもと、川端康成、吉屋信子、中原中也らが携わった伝説の雑誌『少女の友』で、淳一は表紙イラストを担当(昭和10年〜15年)。淳一の表紙によって『少女の友』はますます人気を呼び、雑誌は黄金期を迎えます。
やがて淳一は表紙や挿絵だけでなく、付録(淳一のファッションガイドブックや石川啄木かるた、凝りに凝ったカードなどとても豪華)の企画やデザイン、さらには編集、エッセイなどにも携わるようになっていきます。
1937年(昭和12年)に日中戦争が勃発。
戦時中も淳一は少女たちが正しく明るく生きられるよう「少女の友」に作品を発表し続けました。しかし戦況は悪くなるばかり。淳一は軍部からの強い圧力によって同誌を去ることを余儀なくされました。それでも同年に刊行されたのが、初のスタイルブック「きものノ絵本」。
軍部からの干渉にも負けず、彼は女性にエールを送り続けたのです。
政府が国民に向けて「ぜいたくは敵だ」という戦時スローガンを掲げる時代です。
そんな中でファッションを通じ女性を励まし続けた淳一。多くの女性が心の支えにしていたのではないでしょうか。
1945(昭和20)年8月に終戦。
翌年、淳一は伝説の婦人雑誌『ソレイユ』(のちに「それいゆ」)を創刊します。終戦直後の厳しい時代にも関わらず、創刊号はたちまち完売となったそうです。
その後も淳一は『ひまわり』、『ジュニアそれいゆ』、『女の部屋』などの雑誌を手がけていきました。
戦後、若い女性を中心に洋裁ブームが起こります。
物資不足の中で動きやすい服が必要だったことから、手持ちの着物や洋服をほどき、洋服に仕立て直した「更生服」が広まりました。
さらに、おしゃれを目的とする人、花嫁修行、戦争未亡人など収入源を目的にする人まで洋裁学校には多くの入学希望者が殺到したそうです。
需要を受け、『装苑』『暮しの手帖』をはじめ、多くの雑誌が創刊または復刊されました(ちなみに『装苑』には1995年頃まで有名ブランドのパターン(型紙)が掲載されていました。『暮しの手帖』の花森安治が発案した「直線裁ち」は今でも同誌で大人気の企画です)。
こうして全国に洋裁ブームは広まり、日本の女性ファションは和装から洋服へと変化していったのです。

淳一の『それいゆ』にも洋裁パターンが掲載されているほか、洋裁で余った布のリメイク方法なども掲載されています。淳一がデザインした美しい形のブラウスやスカートは今見ても「着てみたい」と思わせるものばかりです。

現代も愛される中原淳一。
美しい絵、洗練されたファッション画はもちろん、楽しく暮らすための工夫や、心構えなどが優しい文章で綴られています。どの本からも「外見はもちろん内面も美しく生きてほしい」という女性へのエールを強く感じることができます。
多くの本が復刊され手軽に入手できるので、ぜひ読んでみてください。

私たちキモノハーツも淳一の薫陶を受けています。
中原淳一生誕110周年を記念し、キモノハーツでは淳一の叙情画をもとに2種類の振袖を製作しました。
当時の質感をそのまま表現できるよう慎重に染色の確認などを繰り返し、帯小物の再現にもとことんこだわったコーディネートです。

そしてもうひとり、忘れてはならない存在。

『少女の友』誌上で中原淳一と人気を二分した松本かつぢです。

中原淳一の描く少女を「ヨーロッパ的」「憂い」「エレガント」と表現するならば、松本かつぢの描く少女は「アメリカ的」「元気」「親しみやすさ」。はつらつとした健康美を感じさせる作風が魅力です。
かつぢは、軍部からの圧力で中原淳一の掲載ができなくなった『少女の友』も支えました。

また、漫画も得意とし、1938年(昭和13年)に連載を開始した『くるくるクルミちゃん』は少女漫画の先駆け的作品とも言われています。

カラフルでポップな内藤ルネ

1950年(昭和25年)ごろから、「高度経済成長期」を迎えた日本。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』は 1958年(昭和33年)、映画『コクリコ坂から(スタジオジブリ)』は1963年(昭和38年)を舞台にしています。「もはや戦後ではない」という流行語も生まれ、社会も安定していきました。

1960年代は世界的に見てもミニスカートブームなど、ファッションに大きな変化が起きた時代。カラフル・ポップなデザインが60年代ファッションの特徴です。
日本でも既成服が普及していきました。

意外なことに「大正ロマン(大正浪漫)」という言葉が生まれたのはこの頃です。急激に変化する時代の中、古き良き大正時代の文化が再評価されたのです。当時を知る年代の人には懐かしく、若者には新鮮に感じられたのかもしれません。

また、この時代に人気を呼んだイラストレーター/デザイナーが内藤ルネ

1951年(昭和26年)中原淳一の出版社「ひまわり社」に入社。『ジュニアそれいゆ』のほか、『りぼん』(集英社)、『なかよし』(講談社)などさまざまな少女雑誌の口絵や付録、イラスト作品を手がけています。

どこか憂いを含んだ“叙情画家”の絵と違って、内藤ルネの描く女の子はファッショナブルで元気、明るく活発な印象。60年代ファッションのポップさも感じさせます。
カラフルでポップなルネのイラストは文房具からインテリア、キッチングッズなどさまざまな商品が発売され、人気を博しました。

ルネ独自の愛らしいイラストは現代日本の『ファンシーグッズ』のルーツであり、『Kawaii』のルーツであると言っても過言ではないでしょう。

大正〜昭和時代の女性たちも、今を生きる私たち同様「おしゃれ」が大好きだったのではないでしょうか。
「おしゃれをしたい」というのはいつの時代も乙女の矜持。そして自由に「おしゃれ」を楽しめるのは平和があってこそですね。
少し昔の乙女たちに思いを馳せながら、叙情画の少女のように和装を楽しんでみませんか。

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